SOUND OF STAR WARS MUSIC
サウンドトラック考証
【はじめに】このページに掲載されている楽譜は、本文の注釈のために筆者がヒアリングによって必要なフレーズのみを書き起こしたものです。したがってオリジナルスコアとは音符の長さや調の取り方などが違う場合があります。
FUNCTION OF THE SOUNDTRACK
スター・ウォーズにおける音楽の役割
「スター・ウォーズはサイレントムービーに近い」
ルーカスは、スター・ウォーズのBGMの話に触れる際に、このような表現をすることがしばしばある。それはスター・ウォーズの中で音楽の占める重要度をルーカスが他の映画のそれと比べて非常に高く見込んでいることを意味している。
 メインキャラクターにテーマを与え、ドラマチックな展開によってその世界観を確立した『スター・ウォーズ』のサウンドトラックは、単なる映画音楽にとどまらず、銀幕を離れオーケストラの演目としても演奏され得るだけの作品性を獲得したエポックメイキングなスコアであった。そしてそのスコアは、つづく2作によってさらに発展し、映画同様にサントラまでも三部作を通して1作品と認識されるに近いものとして多くの人々に愛されている。
 スター・ウォーズがそれに類する映画の追随を許さないだけの作品となるに、このスコアが大きく貢献しているといっても言い過ぎではないだろう。
 周知のとおり、このスコアを生み出したのはアメリカの作曲家ジョン・ウィリアムズだが、ウィリアムズは作曲を担当するという作業を行う以前に、スター・ウォーズに対して大きな貢献を果たしている。
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スター・ウォーズアンソロジー4枚組ボックスセット
STAR WARS TRILOGY THE ORIGINAL SOUNDTRACK ANTHOLOGY
リリース:1993年
日本盤:BMGビクター(BVCZ-1026〜29)絶版
6,000円
オリジナルレーベル:20th CENTURY FOX FILM SCORES(07822-11012-2)
世界的なスター・ウォーズ氷河期だった90年代前半のまっただ中にリリースされた4枚組ボックスセット。これを見つけた時には泣いたね。昔なくした宝物がタンスの裏から出てきた時の感動っていえばいィんスかね?全曲解説 などで構成された60ページ以上あるブックレットに加え、日本盤にはその全邦訳と大林宣彦監督のエッセーなどが別冊形式でパックされていました。全75曲中32曲が初収録曲という点でもインパクあトりましたね。『特別篇』で差し替えになってしまったマックス・レボ楽団の「ラプティ・ネック」そして「イォーク・セレブレーション」(映画バージョン)などはもはやこのボックスでないと聞く事ができません。2002年の今も輸入盤は入手可能です。


RETURN OF THE FULL
ORCHESTRA
フルオーケストラの復権
スター・ウォーズが生まれた'70年代は、ニューアメリカンシネマブームもあり、フルオーケストラの映画音楽を持つ作品は「古典的」とされ、敬遠される風潮にあった。
 したがって、'70年代ハリウッド映画におけるサウンドトラック事情は少人数編成の軽音楽指向が定着し、加えてロックやポップス、シンセサイザーを導入した新しい音楽がもてはやされ、フルオーケストラのオリジナルスコアを持った作品は姿を失いつつあったのである。
『時計じかけのオレンジ』『THX-1138』『サイレント・ランニング』『スローターハウス5』『ソイレント・グリーン』『ウエストワールド』『未来惑星ザルドス』『イルカの日』『ダーク・スター』『ローラーボール』『未来世界』……これら'70年代に公開されたSF映画のテーマ曲で、フルオーケストラを起用したサントラをもつものはない。
『時計じかけのオレンジ』は劇中ではカラヤン指揮ベルリンフィル演奏によるベートーベンが頻繁に使用されはするが、全体的にはシンセを多用したオーケストレーションがなされた楽曲が主体となっていた。それが当時のハリウッドの流れだっだのである。さらに時代はディスコブームの渦中にあった。
 そのような背景の中でルーカスはスター・ウォーズ制作にあたり、「『2001年宇宙の旅』のようにクラシック音楽を使い、宇宙を舞台にした壮大なスケールのサーガを描きたい」という構想を持っていた。ルーカスの友人であるスティーヴン・スピルバーグ監督に紹介された、『ジョーズ』でアカデミー賞を獲得したばかりのウィリアムズは、この構想を聞いて「宇宙を舞台にした英雄の物語を描くのならば、フルオーケストラのオリジナルスコアでやるべきだ。既成曲では弱い」とルーカスに提案した。ルーカスがこの提案を受け入れたことは言うまでもない。こうして生まれたのが『スター・ウォーズ』のサウンドトラックなのである。つまり、ウィリアムズの最初のひとことがなければ「スター・ウォーズのテーマ」はおろか、すべてのオリジナルスコアは生まれなかったのである。
 有名なメインテーマ
[fig.1]から始まるメインタイトルは、「映画音楽」の代名詞と言えるくらいに有名な存在感のある楽曲だ。それは作品のオープニングを飾るタイトルチューンでありながら、娯楽映画のあり方を変貌させた画期的な1本の誕生と、映画音楽におけるフルオーケストラの復権を祝うファンファーレでもあったのだ。


fig.1 メインテーマ 
いまや着メロでも定番になってます
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スター・ウォーズ 特別篇
STAR WARS A NEW HOPE SPECIAL EDITION
リリース:1997年
日本盤:BMGジャパン
(BVCY-2609〜10)4,400円
オリジナルレーベル:BMG CLASSICS
(09026-68746-2)

97年公開の「特別篇」シリーズサントラ第一弾。このシリーズは、映画で使用された部分を、使用された順番に収録することを基本として構成されてます。6曲の初収録曲と未発表テイク数曲を含む点も嬉しかったですが、このサントラの醍醐味は何といっても9分以上ある「ヤヴィンの戦い」でしょう。
あのデス・スターでの最後の戦いのシーンがまるまる一曲として収録されているのは興奮意外の何モノでもありません。コレを聞きながら関越道を走ってたらつい盛り上がってしまい、覆面パトカーにつかまりました。みなさん注意しましょう。


TEMP
TRACK
既成曲からの影響
この、ウィリアムズ作曲の旧三部作のサントラは、いずれもライトモチーフ[★1]法を積極的に用いて描かれていることによって、ワーグナーの『ニーベルングの指輪』[★2]や、プロコフィエフの『ピーターと狼』などとの比較をされることがしばしばある。また細かいフレーズや構成を聴き比べると、ワーグナーやホルストなどとの興味深い類似点も数多く見つかる。
 
 たとえば「レイアのテーマ」
[fig.2]である。フルートのソロで始まり、オーボエが副旋律を受け、さらに弦パートが主旋律を引き立てるように序々に重奏パートを増しながらメロディを反復し、終盤になり金管が力強くフレーズを昇華させクライマックスを迎える、という構成はワーグナーの歌劇『ローエングリン』中盤の見せ場でもある第2幕4章 "Gesegnet soll sie schreiten" のそれを想起させる。
fig.2 レイアのテーマ 
エピソード2の予告でも効果的に使われてました。美しいフレーズです。一番好きなフレーズかも。
PLANETS/STAR WARS/ZARATHUSTRA
LOS ANGELES PHIL./MEHTA
「惑星」は今までに沢山の楽団に演奏され、レコード化されていますが、中でも71年代に録音されたズービン・メータ指揮、L.A.フィル演奏による「惑星」は有名です。同指揮、同楽団により78年にプレイされた「組曲スター・ウォーズ」と、この71年録音の「惑星」が2枚組となってCDリリースされています。SWファンには超お薦めCDですね。
[★1]歌劇などで、登場人物に主題をなす楽句(フレーズ)を与え、そのフレーズの展開によって楽曲を構成する作曲法のこと。ドイツ語の[Leitmotiv]が語源です。

[★2]『ニーベルングの指輪』はゲオルグ・ショルティの指揮によって全曲録音の偉業がなされていますが、『地獄の黙示録』などで有名な「ワァルキューレの騎行」などのハイライトシーンを集めたハイライトCDも多数リリースされてます。

 パーカッションの連打が印象的な「サンド・ピープルの襲撃」で「キン」という甲高いアクセントに使用されたスチールパイプは、オーケストラで使用されることはあまり少ない打楽器(というよりは単なる鉄パイプ)である。
 これを効果的に使用しているのが、ワーグナーの
『ニーベルングの指輪』の《ラインの黄金》(第4場):「虹の架橋 ワルハラ城への神々の入場」だ。
めったに聴くことのないこの甲高い打楽器音は、聴く者に「ハッ」と思わせる臨場感を与えるに絶大の効果
を発揮している。
 また、ホルストからの影響と思えるフレーズは非常に多い。『新たなる希望』中盤においてファルコン号がデス・スターにけん引されてしまうシーンでの勇ましい金管の刻みが特徴の「デス・スター」は、ホルストの組曲
『惑星』の5拍子が印象的な第1楽章「火星」を3拍子にしたような楽曲である。同じ『惑星』の第5楽章「土星」の序盤で印象的に繰り返される4音からなるフレーズは、そのまま『ジェダイの帰還』後半のヴェイダーがマスクを脱ぐシーン近くで聴くことが可能であるし、つづく第6楽章「天王星」のオープニングで聴かれる木管による5度のハーモニーによって奏でられる少し不安をあおりたてるフレーズは、『新たなる希望』の序盤、2体のドロイドが砂漠の星に不時着した際に不安ながらも何か新しい展開を予感させるシーンで使われた「砂漠の星タトゥイーン」にそのまま踏襲されている。「天王星」の方は、その後「たぬきの金時計」のような少しコミカルなフレーズが展開するのに対し、「砂漠の星タトゥイーン」は同じくコミカルな調子の「ジャワのテーマ」に移行する。
『ニーベルングの指輪』
ハイライトCD
POCL-9561
ビギナーにはまずはコレがお薦めです。
フルスペックでは7時間を越えますので・・・
『ローエングリン』
EMI 7243 5 66519 2 0
カラヤン指揮/ベルリンフィル演奏による82年録音の名演奏がCD化されています。
『威風堂々』を含むエルガー作品集
DECCA 440 317-2
タイトルを知らなくとも、どなたでも一度は聴いた事があると思います。
 『新たなる希望』のラスト、授賞式で大団円を迎えるシーンの「王座の間」では、勇ましい行進曲調にアレンジされた「フォースのテーマ」[fig.3]と、しっとりと流れるような「反乱軍のテーマ」[fig.4]が、対比的になりながらもメドレー形式に連なり至福に満ちたクライマックスを盛り上げている。
 このように対比的な2つのフレーズによって二分されながらも、共に行進曲調のつながりをもつ楽曲としては、サーの称号を持つエルガー作曲の
『威風堂々』(ニ長調)が有名である。「反乱軍のテーマ」と『威風堂々』のしなやかなフレーズとなる部分[fig.5]は、4分の刻みの中で雄大なフレーズを中音域のビオラや木管が奏でるという編成も似たものとなっている。 
 スター・ウォーズのサウンドトラックに既成曲の輪郭がはっきりと現れている理由は、その作曲の過程を考えればすぐに理解できる。
 おおよその場合、映画音楽の作曲には純粋な楽曲と違う作業工程が必要となってくる。つまりは映画音楽の場合、映像が先にあってのコンポーザルワークが要求されるのである。スター・ウォーズもこれに例外ではない。ルーカスは特撮処理の行われていないフィルムやコンテ画を見せながら「このくだりには、この曲のようなイメージのものを」というざっくりとしたリクエストを、既成曲を具体例に挙げながらウィリアムズに対して行っている。このざっくりとしたイメージが、先に列挙した「似ているフレーズ」として部分的に成果品の中に残ってしまというわけである。
サントラ制作の専門用語で、ラッシュに仮おきしたダミーの曲のことをテンプ・トラックという。テンプとは、テンポラリー"TEMPORARY"の略語だ。
スター・ウォーズの場合、このテンプトラックがあったという記録はないが、それに近い形でのリクエストがあったことの名残として、これら聞き慣れたフレーズたちが姿をあらわしているのである。
fig.3 フォースのテーマ 
心に残る名シーンにかならずフォースのテーマあり、というくらいに登場するメロディ。これぞSWのテーマだ!という声も高いです。
fig.4 反乱軍のテーマ 
口ずさむだけで、ラストシーンの至福感がよみがえります。
fig.5 威風堂々より 


LEIT
MOTIV
ライトモチーフ
 スター・ウォーズのサントラの最大の特徴と魅力は、やはりライトモチーフ法によって描かれた数々のテーマだろう。「メインテーマ(ルークのテーマ)」「フォースのテーマ」「レイアのテーマ」「ジャワ族のテーマ」、先に触れた「王座の間」で聴かれる「反乱軍のテーマ」など、『新たなる希望』だけをとってもこれだけのテーマが作曲された。
 『帝国の逆襲』では、さらにそのテーマの数は増え、「ヨーダのテーマ」「ヴェスピンのテーマ」、そして『新たなる希望』では4音でキャッチ的に表現されていた「帝国(デス・スター)のテーマ」
[図6] は、有名な「帝国のマーチ(ヴェイダーのテーマ)」[図7]となり、「レイアのテーマ」は、物語の展開に沿うように「ハンとレイアのテーマ」[図8]に発展することとなった。『帝国の逆襲』以降、「レイアのテーマ」が流れるのは一度だけである[★3]。また地味なことろでは「ボバ・フェットのテーマ」も書かれている。
 つづく『ジェダイの復讐』では、「ジャバのテーマ」「イウォークのテーマ」「ルークとレイアのテーマ」「皇帝のテーマ」などがテーマとして作曲されている。
 旧三部作をとおしてみると、スター・ウォーズ・サーガを代表するであろう作品が、『帝国の逆襲』に多くあることが興味深い。これは、全六部作となるスター・ウォーズを考えたときに、『帝国の逆襲』が非常に意味深いタームであることを象徴しているようでもある。
fig.7 帝国のマーチ (ヴェイダーのテーマ)
政治家の不正疑惑みたいな話題のとき、BGMとしてよく使われてます。
fig.8 ハンとレイアのテーマ
このテーマでクライマックスを迎える『帝国の逆襲』のエンディングをシリーズ最高のエンディングタイトルだという声を良く聴きます。私もその一人。あのシーンにハンはいないのですけどね(笑)
__STAR WARS SOUNDTRACK FILE 03__
スター・ウォーズ 帝国の逆襲 特別篇
STAR WARS THE EMPIRE STRIKES BACK SPECIAL EDITION
リリース:1997年 
日本盤:BMGジャパン(BVCY-2611〜12)4,400円
オリジナルレーベル:BMG CLASSICS (09026-68747-2)

特別篇シリーズ第2弾。9曲の未収録曲(もしくは一部未収録曲)を含む2枚組のトータルタイムは124分35秒にわたります。三部作を通してもっともテーマ曲が豊かで明快なのがこの『帝国の逆襲』でしょう。
テーマ曲以外にも、「アステロイド・フィールド」「ランドの城」「マイノックと宇宙ナメクジ」「スター・デストロイヤー攻撃」などメロディックなフレーズが多い事も特徴です。また、「フォースのテーマ」から「ハンとレイアのテーマ」へと展開する『帝国の逆襲』のエンドタイトル曲は、スター・ウォーズ全作のエンディング曲の中で一番好き、というファンも多い名曲で、「音楽に酔いしれるアルバム」という意味ではお薦めのアルバムです。
[★3]『ジェダイの帰還』で、オビ=ワンがルークに対して妹の存在を伝えるときに、1フレーズだけ「レイアのテーマ」を聴くことができる。『新たなる希望』以外で「レイアのテーマ」がかかるのはこのシーンのみである。
fig.6 帝国軍(デススター)のライトモチーフ 
『新たなる希望』では、場面転換でメリハリをつけるようにキャッチとしこのフレーズが使われました。


THE PHANTOM
MENACE
『ファントム・メナス』のサウンドトラック
これら旧三部作のサントラは、どれもライトモチーフ法によって書かれたテーマを軸足にし、そのテーマを各シーンの楽曲へ展開させてゆく手法をとっていることには変わりないのだが、各3作の持つカラーは決して統一されたものではない。むしろ、各々の作品にある3年というインターバルは、図らずもそれぞれの作品に少なからず差違を生んでいる。
 先に触れたとおり『新たなる希望』はワーグナーの歌劇やホルストの影響が強く出た重厚感のある作品であった。しかし、『ジェダイの帰還』になると、その傾向は薄れ、いわゆる「映画音楽」的なさらりとした楽曲が多く聴かれることになる。さらにはエンドアでイウォークたちと共に帝国軍を相手に戦うシーンの「イウォーク・バトル」
[fig.9]では、ジョン・アンダーソンの『トランペット吹きの休日』のような運動会の玉入れに使用されがちな、イージーリスニングクラシック調のフレーズすら確認できる。
 この「森の戦い」と、『新たなる希望』の「ヤヴィンの戦い」が同シリーズの同じようなシーンで使われていることを考えれば、スター・ウォーズのサントラのテイストが各作において一様ではないことは明白だ。
 また、レコーディングの方法をとってもサントラ毎の違いを聞き分けることができる。
『新たなる希望』はオンマイク(楽器の間近に置かれるマイク)で録られている音が多いため、コントラバスの弦が弓にこすられる質感であったり、金管楽器が吹ききっている時の管がビリビリとふるえている様な感触がダイレクトにリスナーの耳に伝わってくる。それに対して『帝国の逆襲』以降のサントラは、ホール録音かと思う程の残響音をねらった引きのあるマイキングで録音されているのが解る。『ジェダイの復讐』のサントラが全体的にイージーリスニング調に聞こえる理由のひとつはここにある。
 差違があることがよいか悪いかは別として、またその差違のどちらがよいかということも置いておくとして、このテイストの違いは16年ぶりの新作『ファントム・メナス』では、より顕著にあらわれてくることになる。
fig.9 イォークバトル
森の惑星エンドアで、コアラのようなイォーク族を仲間に従えたハン・ソロ将軍たちと帝国軍との戦いのシーンでかかるこの曲・・・というこのキャプションを読むだけで緊張感ない感じしますね。


W
HTH CHORUS
合唱曲の出現
ワーグナーやホルストのような勇ましいブラスを主体とした旧三部作と比較すると、躍動感のある短い音で軽やかなメロディを構成するチャイコフスキーのようなフレーズが多くなっていることが、『ファントム・メナス』のサントラの全般的な特徴である。
しかし『ファントム・メナス』の特徴を語る上で筆頭に挙げるべきは、やはりダース・モールとジェダイたちの闘いの中で象徴的に使用された「デュエル オブ フェイツ」の存在だろう。ここまでしっかりとした「合唱付き」の楽曲が物語の中に挿入されることはそれまでなかったからである。
旧三部作でも、『ジェダイの復讐』などでは「皇帝のテーマ」「イウォーク セレブレーション」
[★4]などコーラス付きのマテリアルは存在したが、しかし「デュエル オブ フェイツ」ほどフロントに合唱を立てたものではなかった。
このコーラスパートの起用は、『ジェダイの復讐』の延長として納得のできるものではあるが、それまでの扱いとは違い、物語を代表するメインナンバーとして作曲されている点が非常に興味深い。
また、クワイ=ガンの葬儀でひっそりと流れたレクイエム調の曲にも、しっかりと歌詞のついたコーラスがついている。
対するシスの暗黒卿ダース・モールのテーマのごとく使用されたフレーズを奏でるのも、やはりコーラスである。こちらには歌詞はなく、バリ島のケチャにも似た発音のスキャットだけであるが、コーラスであることに変わりはない。
 スター・ウォーズの新三部作が合唱をとり入れた理由は何だろうか。
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スター・ウォーズ ジェダイの復讐 特別篇
STAR WARS RETURN OF THE JEDI SPECIAL EDITION
リリース:1997年 
日本盤:BMGジャパン(BVCY-2613〜14)4,486円
オリジナルレーベル:BMG CLASSICS (09026-68748-2)

旧三部作の最後を飾るこのアルバムは、一作目から比べると、ダイナミックな質感は薄れ、いわゆる映画音楽的なおもむきが色濃くなっています。
特別篇によって新しく追加された曲は、ジャバの城のバンド曲とエンディングです。前者には、ある意味お遊び的な意味合いもあっての事ですが、後者はエピソード1から始まる新三部作との流れを汲むために差し替えらたと言ってよいでしょう。
以前のエンディングタイトル「イウォーク・セレブレション」に比べると、特別篇のエンディングは、「コンドルは飛んで行く」のような南米民謡趣向の曲になっています。オリジナル盤の『ジェダイの復讐』を聴き慣れた人なら、だれでもが違和感を感じるはずなのですが、映画を見ている分にはとても自然で、違和感なく物語に集中することができました。旧作になれている方でも、先入観なく聴けば楽しめるでしょう。
__STAR WARS SOUNDTRACK FILE 05__
スター・ウォーズ ファントム・メナス
STAR WARS THE PHANTOM MENACE
リリース:1999年(国内版5月12日)
日本盤:ソニークラシカル (SRCS 8927)2,520円 
オリジナル:SONY CLASSICAL (SK 61816)

 世界中が待ちに待った『ファントム・メナス』公開2ヶ月前に発売されたサウンドトラック。サントラといいつつも、収録されている曲は実際の映画で使用されたものとテイク違いやアレンジ違いのものが多く、また曲順やメドレーの組み合わせなどが映画とは全く違う事から不満の声も多かった一枚。
 これは映画のサントラというよりは、ジョン・ウィリアムスの新譜と考えた方がよいでしょう。
『アナキンのテーマ』など新しい曲をメインに収録しているため、映画の中で脈々と流れる『フォースのテーマ』などおなじみのフレーズを聞くことが出来ないのは残念でした。
[★4]「イウォーク セレブレーション」は、<特別篇>では、「ヴィクトリー セレブレーション」というラテン調の曲に差し替えられているので、オリジナル版でなくては確認できない。 


THE PHANTOM
LEITMOTIVS
合唱曲の出現
 『ファントム・メナス』のもう1つの特徴は、『新たなる希望』以降続いてきたライトモチーフ法によってつくられたテーマが少ないことである。旧三部作の延長とするならば、「アミダラのテーマ」や「クワイ=ガンのテーマ」「通商連合のテーマ」「ジェダイ評議会のテーマ」「ワトーのギャンブルのテーマ」などが作曲されていても不思議ではなかった。しかし『ファントム・メナス』のサントラでは、明確にテーマとしてつくられた曲は「アナキンのテーマ」のみとなっている。フレーズのラストで「ヴェイダーのテーマ」の一節が現れる「アナキンのテーマ」は、美しい旋律でありながらも、純真無垢な少年アナキンの未来のかげりを予感させるテーマとして作曲された。このテーマは今後物語が発展してゆくにつれて、様々な形に展開してゆくことを予感させるだけのゆとりをもった楽曲だ。
 この「アナキンのテーマ」以外にはフルコーラスで作曲された新しいテーマは『ファントム・メナス』にはないのである。

 しかし、もう少し丁寧にサントラを聴いてみると決してライトモチーフ法の影が薄れているわけではないことがわかる。
 「ベン・ハー」の戦車レースを彷彿とさせるポッド・レースのファンファーレでは、レースの主催者であるジャバのテーマがトランペットの刻みの下でチューバによって演奏されている。また、ヨーダのテーマに至っては、評議会のシーンやナブーでのオビ=ワンとの会話の中でバリエーションを変えながら奏でられていることがわかる。そして、アナキンの未来について語られるときにはヴェイダーのテーマが未来の陰りを象徴するように奏でられていれる。つまり技法としてのライトモチーフは『ファントム・メナス』においても健在なのである。

 新しいキャラクターのテーマも短いながら用意された。ジャー・ジャー・ビンクスには、「イウォークのテーマ」にも似た少しおどけた調子のテーマ
[fig.10]がワンフレーズながら用意されている。このジャー・ジャーのテーマの特徴は、デジタル楽器によるパートがあることだ。デジタル楽器によるパートは、エンディングの「オージーの大楽隊」[★5]でも積極的に取り入れられている。

 また、現象や行為などに関するテーマが姿を現していることも『ファントム・メナス』のサントラの特徴である。たとえばクワイ=ガンがワトーとのギャンブルに勝ち、アナキンを迎えに行くシーンで使用される「七人の侍」にも似たメロディ
[fig.11]がそれだ。
 後にクワイ=ガンが討たれ、オビ=ワンに遺言を残した後にジェダイ評議員たちがナブー入りするシーンでも変奏して使用されるこのメロディは、クワイ=ガンのテーマとも言えるが、それよりはクワイ=ガンの唱える「リビング(生ける)フォース」のテーマとも考えることができる。なぜならば、仮にこのメロディが「クワイ=ガンのテーマ」だとするならば、この曲はもっと多くの彼が活躍する場で使用されても良いからだ。
 また、物語前半オート・グンガでボス・ナスがジャー・ジャー・ビンクスに罰を処する旨を伝える場面でかかるホルンの独奏が印象的なメロディ
[fig.12] は、特定のキャラクターのテーマというわけではないが、オータ・グンガをより印象深いシーンにするに充分な効果を発揮している。

 このように注意深く聞き込むと決してライトモチーフが消えた訳ではないのである。『ファントム・メナス』の中でのライトモチーフの扱い方は、旧作のように重厚に構築された明確な姿から、やわらかいものへと移行しているのだ。
fig.10 ジャー・ジャー・ビンクスのテーマ
森初めにリリースされたサントラでは、マリンバのようなPCM音源特有のデジタル音が使用されているテイクが収録されていたが、後にリリースされた完全版では、映画で使用されたものに差し替えられました。
[★5]オージーの大楽隊
『ファントム・メナス』公開当時、このフレーズをマイナーに転調すると「皇帝のテーマ」になると、まことしやかに週刊誌などに書かることがしばしありました。
下の楽譜の上段は「皇帝のテーマ」で、下段は「オージーの大楽隊」なのですが、この2つのメロディの音符の長さや音程の起伏はとても似ています。
私も早い段階でこの件に注目しインターネット上で報告をしたりしましたが、実際のところ、これらの関係は楽典的なマイナーとメジャーの関係ではありません。
しかし、ルーカスとウィリアムズの遊び心をもってすれば、このようなフレーズの継承が行われても不思議はありません。現に私たちは、『ファントム・メナス』の物語が一応めでたく終わっても、両手放しで喜ぶ気持ちにはなれないのです。
fig.11 クワイ=ガンのテーマ? 
ビオラなど中音域の楽器によってダンディーなイブシ銀の輝きを醸し出すこのメロディーはクワイ=ガンにぴったりだ。渋いぞクワイ!
fig.12  
クワイがボス・ナスの手よりジャー・ジャーを連れ出す交渉をするシーンで流れるメロディ。


OVER
THE SOUNDTRACK
映画音楽を越えて
 以上のように『ファントム・メナス』のサントラの特徴をまとめてみると、ルーカスが、そしてウィリアムズが、どのようなビジョンをもって新三部作の製作に臨んでいるのかをうかがい知ることができる。
 旧三部作のサントラは、ライトモチーフに立脚したロジカルな展開をしていたが、メロディックなフレーズのオンパレードが、少し子供っぽさをただよわせていたことは確かであった。それに対して『ファントム・メナス』のサントラでは、わかりやすいメロディを控える傾向にあることはここで確認した通りだ。
また『ファントム・メナス』の合唱曲で歌われる歌詞は英語ではなく、サンスクリット語である
[★6]。これは外国語曲を受け入れる懐を持たないアメリカの娯楽作品としては異例のことと言えるだろう。
 ルーカスがこれほどまでに作品の方向性を転換したのはなぜだろうか。
それは、娯楽作品の中で最も高いクラスに位置する「歌劇」を意識しているからだろう。
 各方面で話題を呼んだコスチュームもそうだが、『ファントム・メナス』の構えている場所は、あきらかに過去の三部作のそれとは一線を画している。ルーカスは、歌劇の要素をより強くスター・ウォーズに導入することによって、よりクオリティの高いエンターテイメント作品を目指しているのではないか。
 そう考えれば、なぜわかりやすいメロディが劇中から姿を消し、外国語の歌詞の付いた合唱が付いたのかという疑問も解けるのである。

 『ファントム・メナス』に始まる新三部作によって、スター・ウォーズは、『ニーベルングの指輪』と並び伝えられる作品として後世に引き継がれることになるかも知れないのだ。
[★6]『「デュエル・オブ・フェイツ」はサンスクリット語で「深い根の底に、最も恐るべき戦いがある / そしてもう一つの怒りが頭(もしくは花)の中に生まれる」と歌われています。
__STAR WARS SOUNDTRACK FILE 06__
スター・ウォーズ ファントム・メナス
アルティメット・エディション
STAR WARS THE PHANTOM MENACE THE ULTIMATE EDITION 
リリース:2000年(国内盤12月20日)
日本盤:ソニークラシカル (SRCS 2385〜6)3,780円
オリジナル:SONY CLASSICAL (S2K 89460)

『ファントム・メナス』に使用された全てのスコアを収録、というふれこみで映画公開より一年半後に発売されたのがこの2枚組CD。モス・エスパで、クワイ=ガンたちが歩いている時にかすかに聞こえる街の音楽までも収録されています。
アナキンがポッドレーサーのエンジンを初始動する様をアーチ越しに見守るシミを描くシーンなど、セリフでなく映像と音楽のコラボレーションによって表現されるシーンの美しいフレーズを余すことなく聴く事ができるのは、何にもまして嬉しい事です。
 ちなみにボーナストラック『運命の決闘(セリフ入りバーション)』は、公開前よりMTVなどでも流れていたビデオクリップと同じ音源です。
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